コラム

自衛隊ヘリの事故について(現時点での可能性)

今月6日に陸上自衛隊のヘリコプターUH60JAが伊良部島付近の海上に墜落した。いまだに搭乗していた10人の消息と機体本体が見つからず、捜索が難航している。
自衛隊のヘリに関してそれほど詳しくない私にも、新聞などのメディアから電話取材を度々受けている。
事故原因究明の鍵を握るフライトデータ・レコーダー、ボイス・レコーダーが発見、回収されていない段階では、誰も事故原因を特定することはできないが、現時点で考え得る可能性として、取材には次のようにコメントしている。

(1)2017年に事故機と同タイプの空自機が、浜松市沖での夜間訓練中に墜落した事故原因とされている「「空間識失調」は考えられない。その根拠は、今回の事故は、昼間でかつ天候も良かった。操縦席の一番大切な計器である機体の姿勢を表示する計器はパイロットの正面にあり、例え錯覚を起こしたとしても、その計器で確認すれば「空間識失調」を起こすることはない。

(2)「UH60JA」は、災害派遣や急患輸送にも使われている。米国や韓国、イスラエルなど各国軍隊で同じタイプが採用されており、機体の信頼性は高い。

(3)飛行中にトラブルが発生した場合、パイロットは、”Control First(Fly First)、
   Navigate、then Communicate”といって、まず機をたてなおし、障害物などに衝突しないような回避操作をした後に、管制官などに非常事態を通報する。これが、トラブルに遭遇した際のパイロットが行う順番である。今回は管制官に通報した事実がなかったということは、最初の対応である機をたてなおす間もなく墜落に至った、可能性が考えられる。

(4)レーダーから機影が消える2分前の管制官との交信では、異常はなかったことからも
  その後の2分以内にパイロットが対応できない異常事態が発生した可能性がある

(5)目撃証言などから、当該ヘリは低空飛行、一説には洋上での最低安全高度である150mの低空飛行をしていたとも言われている。この高さの低空だと、重大なトラブルが急激に発生した場合、パイロットが緊急操作対応しているうちに海面に激突した可能性もある。
(6)機体本体、フライトデータ・レコーダーボイス・レコーダー等を回収して、分析するまでは原因を究明するには、相当時間がかかる可能性がある。

(7)SNSなどのネットでは、「中国に撃墜された」、「ドローンが衝突した」、「電波妨害があった」などの憶測を呼ぶ投稿があるが、科学的な見地からも、また防衛関係者の話としても、そういったことは考えられない。

以上、いままでメディアからの取材に対しての、現時点での考え得る可能性についてのコメントである。一刻も早く10名の搭乗員の発見と、機体本体の回収が望まれる。

以下は、危機管理の視点からの全くの私見である。自衛隊には、沖縄の海域は海洋進出を露わにしている中国の動きを監視するという火急の任務を担っていることは十分理解すべきである。ただ、着任早々の第8師団長を含む3人の幹部が同じヘリに搭乗する計画についての検証も、事故原因の究明とは別に必要ではないかと、思っている。

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