長文になってしまいましたが、お時間のある方、組織運営に興味のなる方に読んで頂ければ幸いです。
経営者、人事部門に、組織運営において「心理的安全性」が注目されはじめていることから、「心理的安全性」を主要テーマにして、主に経営者や人事担当者向けに、各界の専門家が登壇してパネルディスカッションが昨日都内で実施された。会場とオンラインを含めて約7000名の視聴者に聴いて頂いた。私は医療の専門家と60分間のパネルディスカッションを実施した。私の発言の要旨は以下のようなものであった。補足として主催者側からの依頼で航空界の事例・取り組みを紹介した。以下(Q)は主催者側のモデレーターからの質問。(A)は質問の対する私の発言の要旨。
(Q1)心理的安全性の高いチームは率直な発言が増え重大な事故を防げると言われているが航空界ではどうでしょうか。
(A1)まず、心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことである。航空界では安全で質の高い業務を遂行するために1980年代からリソースマネジメントと取り組んでいる。一般に安全で質の高い業務を遂行するスキルには専門分野のテクニカルスキルと業種や職種にかかわらない普遍的なノンテクカルスキルとがあり、自転車の両輪のようにこの二つのスキルがバランスすることが大切である。日本国内の航空会社では37年間、乗客の死亡事故ゼロが続いている。その要因の一つにこのリソースマネジメント、ノンテクニカルスキルの導入がある。これを発揮するためは心理的安全性との関わりが深い。
(Q2)仕事への要求レベルは高いが関係性が悪い「支配的なチーム」が航空の現場であった場合どのような悪影響があるでしょうか。
(A2)トップの判断、指示が間違っても他のメンバーはおかしいと思っても何も言えないと、限りなく危険に近づき、最悪の場合は事故や不祥事に至ってしまう。最近、日本の大企業での不祥事が複数発生しているが、社員のなかには「こてはおかしい」とい気づいている者が必ずいるはず。この思いが経営層に届いていれば、不祥事は発生して居ないはずである。
航空界でも支配的な雰囲気でメンバーがものを言えないことが要因で事故に至った事例が何件かある。海外の航空会社では軍出身のパイロットが民間航空に再就職するケースが多い。軍での階級の権威勾配が強く残っている場合は、こうした事故にいたる事例があった。日本の航空会社でも昔はこうしたことが要因で事故原因と推定された事故がありその教訓を活かして、現在では、ある許容範囲をこえた場合は必ず口に出して言うこと、安全に着陸できないと誰が判断した場合は「Go Around(着陸復航)と声を出し、操縦しているパイロットは着陸復航をしなければならない、という規定になっている。
(Q3)関係性は良いが仕事へのレベルは低い「家族的なチーム」が現場であった場合どのような悪影響があるでしょうか
(A3)「家族的なチーム」は何でも気軽にものが言える雰囲気があるという利点はあるが、緊張感に欠ける傾向にあること、誰がリーダーシップをとっているかが不明確でチームとしての目指す方向が曖昧になりやすく、大切なことが抜けてしまう、チームとしての意志決定が危険に近づくまで定まらないというリスクがある。
航空界では、「適度な権威勾配」を大切にしており、「支配的なチーム」、「家族的なチーム」の弊害に陥らないように教育・訓練を通じて徹底している。
(Q4)率直な発言や健全な衝突を行いながら目標を達成するために、リーダーがとるべき行動は何でしょうか。
(A4)本日のまとめになるかと思うが、まずリーダーについて。組織の運命はリーダー次第、組織のパーフォーマンスはリーダーのリーダーシップのレベル以上にはならないという法則がある。従って、リーダー教育が大切である。それもリーダーになったからではなく、リーダーになる手前から実施する必要がある。本質的なことにも触れたい。企業・団体の組織と人体組織の機能は全く同じであるということ。人体組織は心臓、肺、胃腸などの器官がそれぞれの役割を果たしてはじめて健康を維持できる。企業・団体の組織も、各人がそれぞれの役割をしっかり認識してそれを確実に遂行してこそ、安全で質の高い業務を遂行して業績をあげることができる。従ってリーダーは各人の役割をしっかりと認識させ、役割を遂行させ、役割、専門に応じてリーダーシップを発揮して、こうした方が良い、おかしいと思ったこと、こんなアイディアはどうだろうなど気軽に口に出すように促す。そして、例えメンバーが口に出して言ってくれたことが的外れな内容であっとしても、とにかく口に出して言ったくれたことにたして「ありがとう」と言い、時間のあるときに、実はこうなんだ、これに懲りずにプロとして、思ったことは何でも口に出して言うように指導するマネジメントが求められる。つまり、今、求められるリーダーシップは「役割遂行型リーダーシップ」である。それを発揮して安全で質の高い業務を遂行する組織・チームはまさに心理的安全性の高い組織・チームと言える。これは、別の言葉でいえば良き組織風土、組織の土壌である。大きな企業、伝統のある企業ほど組織風土、土壌を変えることが難しいが、根気よく良い土壌作りに取り組むことが大切である。これは良い植物を育てるためには、まず土壌作りから始めるのと同じである。
以上、経営者、人事担当の皆様にとって、腑に落ちることが一つでもあれば幸甚です。