コラム

問題解決には形容詞や抽象的な言葉ではなく、具体的に示す

コロナ対策等で、安部首相がよく「スピード感をもって~」と述べている。昨日は西村大臣も「緊張感をもって~」と記者会見で述べている。いずれも一生懸命なお姿は十分に理解できる。しかし、残念ながらトップ、リーダーの発言としては、ほとんど意味のない言葉である。マスコミも、テレでコメントをしているコメンテーターも、この発言について誰も疑問を呈していない。少し長文になるが、なぜ意味のない言葉かを、対比して考えて頂くために以下に実例を紹介したい。

2003年2月1日にスペースシャトル・コロンビア号が地球への帰還の際、大気圏再突入中にテキサス州上空で空中分解し、乗員7名全員が死亡した事故があった。NASA(アメリカ航空宇宙局)は、スペースシャトル計画を中断し、原因究明と再発防止策を検討することになった。次回は日本人宇宙飛行士の野口聡一さんが搭乗する予定だった。日本でもJAXA(宇宙航空研究開発機構)が「日本人宇宙飛行士安全検討チーム」を発足した。その検討チームの一員に選ばれた私は、当日航空会社の運航安全推進部長で、宇宙開発に関しては全くの素人であったので、検討会では、主に安全管理(危機管理)の視点からと、NASAの安全文化に関して意見を述べた。毎回NASAから送られてくる事故調査内容と、スペースシャトル計画の再開に向けてのImplementation Plan(実行計画)をみて、リスクを乗り越えて、前に進むための実効性のある対応策に感心するとともに、日本の抽象的な対策との差の大きさを知らされた。今まで、日本の国や会社の再発防止策では、こうした文章を見たことはなかった。それは、NASAから送られてくる実行計画には、項目毎に「どの組織がいつまでにこれを実施する」と担当組織を明確にしている。かつ、いつまでにそれを完了させるかという期限も明確にしていた。これなら目的を達成できる確率が非常に高くなるはずである。

主語もなく期限もなく、単に「スピード感をもって行う」「緊張感をもって行う」という対策が、ほとんど実効性も意味もない形容詞で終わってしまっていることを理解頂けたかと思う。

国民も、抽象的な言葉や耳に心地よい形容詞だけで満足しないで、疑問を持つことが、危機に対しても強く、実効性のある国の政策へと結びついていくはずである。

最近の記事

PAGE TOP